設立趣意書
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十河基文

高齢化社会の進行に伴い、歯の喪失を訴える患者は増えている。

“見た目を元に戻したい”・“噛み応えを良くしたい”というニーズから、インプラント治療を希望する患者の数は増加傾向にある。しかし、手術の過程で神経麻痺などを偶発することや、35年間安定しているインプラントがある一方で不適正な力学環境により半年で抜けてしまうことがある。未だ歯科医師の経験や勘に頼る部分が数多く存在するリスクの高い治療法であることも事実である。

 

大学を卒業してから臨床研究医として十数年間歯科医療に携わってきた。その中でインプラント治療をメインの研究対象とし、画像診断を用いた手術ナビゲーションと生体力学解析を用いた予知性の向上についての研究を行ってきた。数年の研究の結果、私の研究は臨床の現場でも十分に使えるレベルに達していた。この技術が、「歯科医師の正確な診断・治療を助け、手術の危険性を下げられる!」「力学解析によるシミュレーションによりインプラントの超寿命化を実現できる!」という思いが、私を胸躍らせた。“実用化したい。”そう、強く思った。

 

私は、歯科医である。特にビジネスの経験があるわけではない。しかし、実用化するためにはこの技術を製品化しなければならなかった。周りの企業に話を持ちかけてみたが、うまく進まない。途方にくれながらも、一通の案内を頼りに、大学の技術移転オフィスの門をたたき担当のコーディネータに構想を説明した。「ご自身で事業化されたらどうですか?可能性はありますよ。」ほんの数十分程度のことだった。初めは自分とは別世界のことでピンとこなかった。

 

しかし、その日以来、私の生活は変わった。まず、特許を出願し、コーディネータと一緒に協力者を募るためまた製品化への開発費を調達するため各所を回った。そのときのコーディネータが後に共同創業者となる西願である。彼もまた、マーケッターとして先端技術の事業化に情熱を注いでいた。思いは同じだった。

 

開発と事業化のプランニングが進み協力者が増え、そのことが私に起業に踏み出す勇気を与えてくれた。私の思いに共感してくれ、志を同じくするもの数名と2003年11月11日、株式会社アイキャットを設立した。アイキャットは歯科用インプラント治療においてITを駆使し、診断結果を正確に治療に反映させるために常に新しい技術開発とその製品化を行うことを目的に活動を開始した。

 

一人でも多くの人にこの技術を使ってほしいと思い、この試みに乗り出した。と、同時にそれは我々にとって、自らの能力を以って世に何かを問うためでもあった。

 

いずれにせよ前途にあるのは輝かしいものばかりではないだろう。ただ、なぜ我々は立ち上がったかということをここに記しておきたい。

 

平成15年11月11日

十河基文